
銀行預金に節税効果はなし
 銀行預金は残高がそのまま財産の価値となります。
 残高は何もしなければ減ることはありませんがマスナス金利の時代、利息が増えることも期待できません。そればかりか、節税効果はないため、相続時に税金が課されると間違いなく減ってしまいます。
相続税の税務調査は預金調査
 相続税の申告書を提出すると、税務署はその内容を確認し、ほぼ1年くらいの間に税務調査が行われることが一般的です。以前は主に土地の評価についての指摘が多かったのですが、最近では、税務調査は預金調査が中心のことが多いようです。それも、亡くなった人の名義だけでなく、家族名義の預金はほとんどが調査をされ、指摘を受けると言われています。
 名義が違うから問題ないと安易に考えていると相続財産として指摘、追徴され、中には故意に隠したと重加算税を課税されることもあります。財産を銀行預金で持つことは、節税できず、方法を間違うと税務調査の対象にもなります。預金で持つことは安心とは言えず、リスクもあると考えなければなりません。これは、株式などの有価証券も同様で、家族名義の株も預金と同様です。
 よって、銀行預金や有価証券は、そのまま持ち続けるよりも、節税対策に活用することが大切です。
【事例】余命宣告された今こそ、対策の決断をした

◇現状
 Aさんの夫は80代。数年前から難病を発症し、現在では自宅で生活をしていますが、少し前に余命宣告をされました。
 Aさんは夫の余命が長くないと知り、いよいよ相続対策をしておかなくてはと思いたちました。
自宅はAさん夫婦と長男の3人で生活しています。長女は自宅で音楽教室を開いていますが、近くにマンションを借りています。子供2人は独身で収入は安定せず、親に頼りきりというところです。 
◇財産の確認と課題
 夫は親から相続した財産を有価証券にしており、自分でも購入した賃貸不動産があります。
 評価すると不動産が4物件で1億円、動産が1億6000万円となり、合わせて2億6000万円となりました。
 夫は賃貸マンションを所有しているため、法人を設立していて、現在はAさんが代表者になっています。
 一般的には、配偶者の税額軽減を適用すれば、納税の負担は少なくなりますが、Aさんにも動産6000万円、法人への貸付金が4000万円、合わせて1億円の財産があり、配偶者の特例を使うメリットが生かせず、多額の相続税がかかります。
 夫が亡くなった場合、相続人はAさん、長男、長女の3人ですので、相続税は4320万円と試算されました。
◇対策1 有価証券で区分マンション購入
 夫の体調を考慮し、時間をかけずに節税効果を高められる方法を選択しました。
 まずは、預けたままの有価証券の1億円を解約し、対策に活用することにしました。
 将来は二人の子供が二つずつ分けられるように、2200万円~2800万円のワンルーム、1DKのマンションを、立地を分けて4戸購入することにしました。
◇対策2 長女が住む住居を購入
 長女の住むアパートの家賃10万円は夫が払っています。そこで、預金3000万円で自宅の近くで中古分譲マンションを探し、購入するようにしました。
 自宅は、同居する長男に相続させる予定です。音楽教室は当分は自宅で継続しています。
◆まとめ
 Aさんは夫の余命宣告を受けており、相続が1年以内に発生するのではないかと不安に思って、行動されました。夫は酸素吸入装置が必要ながらも、体調は比較的落ち着いていましたので、節税のためにと決断をされました。
 夫はいままでとは相続の状況が変わったことを理解しておられ、対策ができてほっとされたようです。
◆対策のポイント
預金のままでは節税できないため、賃貸不動産を購入して節税します。
【対策前の相続財産:2億6000万円の内訳】
(夫の財産を相続する前の想定)
| ■不動産 | 〈自宅〉 | 3000万円 | 
|---|---|---|
| 〈賃貸物件〉 | 7000万円 | |
| ■預金 | 6000万円 | |
| ■有価証券 | 1億円 | |
| 計 | 2億6000万円 | 
【対策前の相続税:4320万円の計算式】
①課税価格の合計額から相続税の基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を計算します。
| 財産評価: | 2億6000万円 | 
|---|---|
| -基礎控除4800万円(3,000万円 + 600万円×法定相続人数3人) | |
| =2億1200万円 | 
②配偶者の課税遺産総額1億600万円
| 2億1200万円÷2=1億600万円×40% | |
| -1700万円 | |
| =2540万円 | 
③子の課税遺産総額5300万円
| 2億1200万円÷4=5300万円 ×30% | |
| -700万円 | |
| =890万円×2 | |
| =1780万円 | 
④2540万円+1780万円=4320万円・・・相続税の総額
【対策後の相続財産 1億7500万円の内訳】
(夫の財産を相続する前の想定)
| ■不動産 | 〈自宅〉 | 3000万円 | 
|---|---|---|
| 〈賃貸物件〉 | 7000万円 | |
| ■預金 | 3000万円 | |
| ■対策1 | 〈区分〉 | 3000万円(有価証券1億円を解約、区分マンションに30%に) | 
| ■対策2 | 〈長女宅〉 | 1500万円(預金3000万円を解約、マンション購入50%に) | 
| 計 | 1億7500万円 | 
【対策後の相続税:1397.5万円の計算式】
①課税価格の合計額から相続税の基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を計算します。
| 財産評価: | 1億7500万円 | 
|---|---|
| -基礎控除4800万円(3,000万円 + 600万円×法定相続人数3人) | |
| =1億2700万円 | 
②配偶者の課税遺産総額6350万円
| 1億2700万円÷2=6350万円×30% | |
| -700万円 | |
| =1205万円 | 
③子の課税遺産総額3175万円
| 1億2700万円÷4=3175万円×20% | |
| -200万円 | |
| =435万円×2 | |
| =870万円 | 
④1205万円+870万円=2075万円・・・相続税の総額
以上により、相続税総額は対策前が4320万円で、対策後が2075万円、約2245万円の節税効果がありました。現金や有価証券を有効的に不動産に変えることで、確実に相続税の節税効果を生み出すことができます。
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